集合論入門授業日誌


成績の統計的データです。

A --- 結構わかった人(12人)
B --- ある程度わかった人 (30人)
C --- 少しわかった人 (31人)
D --- 結果を出せなかった人(11人)
/ --- あきらめた人  (10人)


4月16日

授業でも紹介しましたが、副読本として、
佐藤文広「数学ビギナーズマニュアル」(日本評論社)
を薦めます (著者のホームページ も参考になります)。他に、
石谷茂「A と E に泣く」(現代数学社)
細井勉「わかるイプシロン・デルタ」(日本評論社)
といったものも参考になるでしょう。
授業の題名は、「集合論」となっていますが、「論」の部分は、いたしません。 前半は、ごくごく簡単な、数学のお作法としての「集合」入門を解説します。 後半は、一転して「硬派」な内容(いわゆるイプシロン・デルタ論法)です。 微積分の理屈っぽい部分を扱います。
以上をうまくカバーする本は、残念ながらないので、 講義ノートを 授業の進度に合わせて公開していきます。 参考にして下さい。 授業に関する要望は、直接話し辛ければ、メールでもどうぞ。
今日は、初日、ということ (および アンケートの回収も)あって、 命題の and と or の説明までしかできませんでしたが、 来週からは、「気合」を入れていきます。 「2000円分」、元を取ってください。

4月23日

今日は、「and」 と「or」の復習から、 一通りの論理記号の使い方について説明しました。
一部、説明が乱れましたことをお詫びいたします。 こういった「形式のお作法」の説明は、話すほうもなかなかに、ストレスが あり、聞いている方は、もっとかも知れませんが、 しかたありません、しばらくご辛抱下さい。

昔、こういった形式論理のさわやかさに、数学科の学生は一度はしびれるものだ、 という感想を、勉強仲間から教わりましたが、「数学科」という意識のなかった せいか、ピンときませんでしたが、皆さんはいかがでしょうか。

これまでの(と言っても2回だけですが)、 「形式のお作法」は、後々、ややこしい証明のロジックを整理する 必要が生じたときに、使えればよいので、その程度のものと割り切って 勉強した方が幸せかも知れません。

とりあえず、次回は「集合」に入りますが、一つ言い忘れたものが あるので、それも次回。

あと、試験の予告をしました。試験範囲(問題)については、 これも次回に、説明いたします。

(こっそり持っていってください。 set.ps, set.pdf

業務連絡:1年生のガイダンスで、コンピュータの利用申し込みについての 説明をすること。

5月7日

連休はいかがだったでしょうか。 昔は、連休が明けると、出席者が「半減」したものでしたが、 最近は、皆さんまじめなようで、1割減といったところでしょうか。

今日は、全称記号(Aのひっくりかえし)と、その否定の解説をしました。 ここまでが、来週の試験範囲です。
集合のところは、「数の集合」の説明で時間がきてしまったので、 残りの部分は来週いたします。 論理計算の規則を言い換えただけなので、すぐ終わると思います。 試験はそのあとの時間で行います。
forall と exists の記号、implication の解釈あたりを中心に復習して おいてください。

参考書(問題集?)の追加として、
微積分と集合 そのまま使える答えの書き方
飯高 茂 (編集), 講談社サイエンティフィク、¥2000
を挙げておきます。

5月14日

集合算の基本は、論理計算のそれとパラレルになっているので、 内容的には、同等と思っていいのですが、 「集合」の方が何かにとわかり易いでしょう。一つには、視覚的な理解の仕方ができる点にあります。 いわゆる Venn diagram とかがそれですが、 G.~Cantor よりも「ベン図」の方が有名である風潮は、いただけません。 早晩、誰かが考え出していた(一説には Euler にまで遡れる)であろうことなので、 あまり、大げさにあげつらうべきことかどうか。 (set2.ps, set2.pdf)

今日は、第1回の試験 (tset1.ps, tset1.pdf) もしました。 「数学的な論理」の基本がその範囲だったのですが、 これをきっかけに「論理的な説明」に目覚めていただけると嬉しいのですが、 何、そういっている私も、本当の所、よくわかっていなかったりするので、 困ったものです。
さて試験の内容についてですが、implication の否定は、 やはり難しかったでしょうか。私、思うに内容の程度以前に、 未経験のものとの接し方の態度・心構えが大きいように考えます。 如何にして、手取り足取り、の環境から脱するか。

5月21日

試験に前後して、「論理計算とかは暗記して使うべきか」という質問を受けました。
ここに「数学」に対する大きな誤解を垣間見る思いがしました。
確かに、基本的な公式等は「覚えておく」必要があることは事実ですが、 重要な点は、公式はただ単に覚えて使えればよいというものではなく、 その内容について、成り立つ根拠を一度は理解しておく必要があります。 さらに、欲を言えば、基本的な公式については、いつでも、自ら成立根拠について説明ができる ようにしておくのが理想です。これは、必ずしも「厳密な証明」を求めているのではなく、 「何故、自分はこの公式を使えると判断しているか」という自覚の問題です。 場合によっては、証明はできないけれども、様々なケースについて確認してあって、 「確かであると信ずる」というのでもいいのです。 そうでないと、体積の積分計算で、答えが負になっても、平然としているといった無神経な ことが起こります。とても、危険なことです。

さて、前回の試験問題の答案を見た上での講評ですが、 総じて、命題の否定の理解が不充分でした。
ということは、形式論理についての理解が足りなかったということでもあるのですが、 説明の仕方と時間数双方に改善の余地を残しました。
と同時に、「全てを丁寧に教えてもらう」といった、教わる方の気持ちも感じられて、 これは、改めた方がよいとも思いました。
大学の授業に、「手取り足取り」を期待するのは間違っています。 (そのようなことをしても、お互いの利益になりません。)
「問題集」がないから勉強できなかった、という言い訳は成立しません。 授業では、「素数である」という性質を「論理的」に書き表すことをして見せました。 同じようなことは、他の様々な数学的主張についても可能なことは、少しやってみれば すぐ実感するはずです。試験では、「実数の2乗は負ではない」を取り上げましたが、 「2次方程式は実数の範囲でいつでも解けるか」とか、「素数は無限に多くあるか」とか、 いくらでも、例を捜してくることができるはずです。
要は、そういったことを自発的にやってみようとするかどうか、が大事な点で、 そういった態度の蓄積が、4年後の大きな違いとなって現れて来ます。 (set3.ps, set3.pdf)

5月28日

今日は、Cantor の有名な結果(対角線論法)の解説その1です。
すでに、「微積分学I」で聞いたと思いますが、 有理数全体の集合と実数全体の集合は、どちらも無限集合なのですが、 「無限の度合いが異なる」というのが、Georg Cantor の発見したとても 重要な事実です。

わかってしまえば、証明自体は大して難しわけではありませんが、 「無限」に対する正しい認識のなかった状況のなかでの発見であることを思えば、 その偉大さは、強調してしすぎることはありません。

授業では、ごくごくスタンダードな説明しかできませんでしたが、 是非、Cantor の伝記などに当って、詳しく研究してみてください。 インターネットの検察サイトで、「Cantor」を入れて見ると、 沢山の関連 webpage がみつかるはずです。

6月11日に2回目の試験を行います。

6月4日

早くも6月です。 そろそろ「欠席の連鎖反応」が目につくようになってきました。 出席していても、「別の作業」とかしていては同じことです (携帯、楽しいですか?「考えること」の妨げでは?)。

さて、今日は先週できなかった、Cantor の定理(対角線論法)を説明しました。 「可算」という概念と併せてどうぞ (「無限」と正面からぶつかるときに必要になります)。

次回の試験範囲は、集合と写像、です。 集合族の和・共通部分、写像による部分集合の像と逆像、 のあたりを復習しておいてください。 (set4.ps, set4.pdf)

6月11日

今日から、後半戦に入りました。 集合の話から実数の話にシフトです。
まずは、「実数の連続性」と呼ばれる性質を、 区間縮小法の形で説明しました。 至極常識的な性質ですが、これから、今後出てくるように、 微積分の基礎となる定理がぞろぞろと導かれるのは驚異的ですらあります。 むしろ、解析学の基礎を突き詰めていったら、 このような実数の性質にまで還元できたというべきかも知れません。

理屈っぽいのは百も承知、 こういった「純粋思考」を若いときに一度は経験しておくのが、 世のため人のため自分のためになると信じているのですが、 おおげさ?

さて、こういった解析の基礎を展開する上で基本になるのが、 今日の説明でも出てきた「無限部屋割り論法」です。 (実数の)有界集合があれば、どれかの実数は、その「集中攻撃」を受ける、 と書くと物騒ですが、そんな感じの論法です。 これを使って、「上限」、「下限」の存在を証明したところで、 時間となって、予告どおり、テスト (tset2.ps, tset2.pdf)。 できや、如何。

6月18日

試験を採点していて思ったことには、 集合の要素と一個の要素からなる(部分)集合の違いが、 わかってもらえんなあ、ということ。 総じて、概念的なところがルーズなのは、「時代」であろうか。 もっとも、これは昔から言われていたようではありますが。 (私も、いいかげんです。Russel のパラドックス、Goedel の定理、 に何らショックを受けなかったもので。)

さて、今日は、そんなことよりも、文部(科学)省は、国立大学を減らして、 一部の(10程度?)大学に集中して予算をつけ、他は削減、 という既定の方針を正式に発表したようです。
まったくもって、「すばらしい」。 これで、めでたく日本はつぶれるでしょう。 次の世代からは大いに恨まれるでしょうが、多少なりとも、 「地球にはやさしい」ことになるのかな。

理屈っぽい話が続いていますが、今日のメインは、「コーシー列」です。 数列が収束しているかどうかを収束先を知らずに判定する方法で、 理論的にきわめて重要。 あいまいな微積分はけしからんと怒ったコーシーが大いに利用したものですが、 そのコーシーも、定積分の存在のところで、 間違えました。
そのミスの修正のあたりから、次回に続く。 保和苑に紫陽花を観にいこう。 (set5.ps, set5.pdf)

6月25日

先週の日誌のところに、 うっかりやる予定でできなかったことまで書いてしまいました。 大目に見てやって下さい。(しかし、入試の「ミス」が続きますねえ)。 定積分の説明は後にまわします (とか言いながら、しないで終わるかも知れませんが)。 (set6.ps, set6.pdf)

さて、今日は、後半部分の最大の山場、イプシロン・デルタである。
先週末にも少し雑談したように、まずギリシャ文字である。 英語で、「ギリシャ語のようだ」というのは、「チンプンカンプン」 を意味するがごとく(怒れギリシャの人たち)、 せめて数理科学科の証として、「おお、それはイプシロン・デルタだ」 ぐらいのジョークをとばして欲しい。 そのためにも、(わかるわからないは別にして)学ばないといけません、 こちらは(説明してわかるような話ではないのだがと思いつつも) 説明しないといけません。

今後の予定を書くと、来週は出張でお休みです。 その次の週は、試験を行います。 試験範囲は、可算性の証明と実数の集合とします。 引き続き私は不在なのですが(どこ、行っているんでしょうねえ)、 院生の川島君に監督をしていただきます。 授業再開は、7月16日になりますが、これが実質的に最後の授業となり、 7月23日にもう一度試験をして、希望に応じて補講を考えるつもりです。

7月9日

関東はすでに梅雨が明けたみたいで暑いですねえ。 先週、行っていたルーマニアも暑かったのですが、 さすがにこれほどではなかったので、時差の影響とともに参っているのですが、 試験3の採点が済みました。 (tset3.ps, tset3.pdf)。

気がついたことをいくつか。
積集合の説明を繰り返しておかなかったせいか、集合の共通部分と勘違いしていたり、 要素の積の集合を考えたりと、大混乱でした。 「加算」の感じは大体わかってもらえたようですが、文章での表現を、 もっと「お稽古」する必要があります。 主題別セミでやってもらえると嬉しい。
実数の集合の上限・下限を求める問題ですが、 二次関数の像なので、「いたずら」して、無理数に範囲を限定してみたのですが、 実数が無理数で近似できるところの説明がしてある答案は数えるほどでした。 どうして、説明を書かないのでしょうかねえ。時間はたっぷりあったはずですが。

来週は、時間がないので、試験の講評は残念ながら割愛しますが、 自分の答案を見たい人は、研究室までどうぞ。

7月16日

今日で、実質、最後の授業となりました。途中、休講が1回半ほど入ってしまったため、 省略した項目もいくつかあったのですが、 何とか定積分の存在証明までたどりつきました。 (set7.ps, set7.pdf)

来週(7月23日)は、 最後の4回目の試験を行います。試験範囲は、積集合などの集合の演算と加算性、 上限・下限の計算を先週に引き続いて出します。全体的に、説明が必要な問題になる予定です。
成績は、この4回の試験を使って、授業の中で説明した方法により算出します。 試験結果に疑問がある場合は至急連絡してください。再試験等は行いません。

授業で省略したもののいくつか(一様連続性、同値関係・同値類など)を 9月28日(金)に補講する予定です。掲示にご注意下さい。

7月23日

4回目で最後の試験をしました。 (tset4.ps, tset4.pdf)。 この結果は、急ぎ、水曜日か木曜日に掲示する予定です。 不明な点は、今週中に連絡下さい。

それでは、次学期までお元気で。


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