複素解析学 II 授業日誌


成績の統計的データです。

A --- 結構わかった人(11人)
B --- ある程度わかった人 (16人)
C --- 少しわかった人 (7人)
D --- 結果を出せなかった人(6人)
/ --- あきらめた人  (15人)


10月5日

今日から複素数の解析学、パート2です。 教科書は、一応、前期で使ったものをそのまま使用しますが、 カバーする項目とか話の順序とかは、必ずしも「本」の通りにはならないでしょう。

最近は、「外圧」が強くて、成績のつけ方とかを「公表しろ」となっていて、 これは、「いいかげん」な授業もあったりするのでやむを得ない気もしますが、 あまり、杓子定規にしたりすると、お互いの「意欲」を削ぐ結果にもなりかねません。 たとえば、私の場合、「授業時間中に行う3−4回の試験」となっていますが、 時間のゆるす限り多くの試験を行って、「分かろうとする気のある人」は、 できるだけ最低限のことはマスターして、合格できるように、と思っての 方式です。
ここだけの話、いわゆる「追試」(正式には、再試験というらしい)、 を始めから組み入れた形のものなのですが、 こういったことは、予め「厳格に公表」できる性格のものではありません。
締めるべきところと緩めてもよいところを、一緒くたにして、 「形の上での厳格さ」を目指しても、誰も「幸せ」になれないような気がします。

「マニュアル人間はいかん」とか「自発的に調べたり考えたりしない」とか、 一方で言っておいて、 「手取り足取り教えなさい」と要求するのは、大いなる矛盾という他ありません。

さて、コーシーの積分公式、「不思議」ですねえ。 そもそも、何でこういったものを考えたのでしょうか。 高木貞治の「近世数学史談」(岩波文庫、¥560?) あたりを読んでみましょう。

10月12日

今日は、コーシーの積分定理(ぐるっと積分するとゼロになる)の応用として、 Fresnel 積分を計算してみました。
そもそもコーシーがこのような複素(線)積分を言い出した背景には、 特殊な定積分値を組織的に導くことがあったようで、 その意味でも、創業者の意識の追体験になったでしょうか。

積分の評価のところを少し詳しく説明したために、 冪級数との関連までは行きませんでしたが、 その前段階の「積分公式」まで説明しました。

解析学での「評価」(不等式)のポイントは、 「積分+関数の増大度のスピード比較」が基本であり、 そのいずれもが、今回の積分計算に現れています。 きわめて、重要なことなので、よーく復習しておいてください。 (第一級の試験範囲です。)

人によっては、複素積分の計算練習も併せて必要になるかも知れません。 この辺は、一人一人違ってくるので、自分に合ったものをどうぞ。

10月19日

今日のテーマは「解析関数」です。

考えてみれば、これは「妙な」用語で、 英語でも analytic function というので、「解析学(=微積分)で扱う関数」 ぐらいの意味でしょうか。関数と解析を入れ替えて「関数解析」とすると、 別の数学分野になったりします。

ひとことで言えば、冪(べき)級数で書き表せる関数ということですが、 実は、このようなものは実数値関数の中では非常に特殊なものですが (例えば、「折れ線関数」とかは、(一個の)冪級数で書けない)、 複素変数にまで広げて、実数に「制限」すると、「全て」の関数を表示できて しまう、とんでもなく「情報量」の多いものでもあります。

虚数は、imaginary number、というくらいで、 もともと「想像上の数」だったのですが、量子力学で果たす複素数の役割とか を見てると、実はこちらの方が実体で、「実数世界」はその投影にすぎない、 といった感じすらしてきます。(まるで、「新興宗教」のようですが。)

関数を複素数にまで広げることにより、 「微分できること」と「積分できること」あるいは 「冪級数表示できること」が全て同等の内容である、ということを、 今日は説明しましたが、「感動」していただけましたでしょうか。

11月2日に1回目の試験を行います。 試験範囲は、線積分の計算、コーシーの積分定理の積分計算への応用、 とします。練習しておいて下さい。

10月26日

今日は、とりあえずローラン展開と留数定理までをやっつけました。
どちらも、 コーシーの積分定理(あるいは積分公式)を少しだけ一般化したものですが、 この「残り物」の福はなかなか、楽しい。具体的な計算は次回にゆずりますが。

次回の試験範囲は、(正則とは限らない)関数の線積分の具体的な計算問題と、 授業の例題でやりのこした、(広義)積分の計算、とします。 後者については、解説したフレネル積分の計算もよく復習しておいてください。 Good Luck!

11月2日

第1回目の試験をしました。 (comtest1.ps, comtest1.pdf

問題1は、基本的な(複素)線積分の計算でしたが、 きちんと計算できている人は少数でした。 これは、前期の「複素解析学I」の内容なのですが、 定義が満足に理解されていなかったようです。
これでは、具合が悪いので、 今後も繰り返し試験でチェックすることにしましょう。

xy が x+iy の冪級数で書けないことは、いろいろな示し方があります。 解答例では、コーシーの積分定理と結びつけて説明しましたが、 コーシー・リーマンの方程式を考えても、あるいはもっと素朴に、 c(x+iy)^2 と xy を比較してみてもよいでしょう。
こういった「説明」する問題は、苦手の人が多いらしく、 解答している人自体が少数でした。

問題2は、授業でも、「ここが出るよ」と予告していた割には、 正解率が低いのが気になりました。 初めから「あきらめて」いるような答案もあったりして、 それならば、授業の中で説明を求めて欲しかったのですが、「 遠慮」しているのでしょうか。
問題の後半で「失敗」の場合を問題にしましたが、 こういったことは、「指摘」を受けないと考えないのでしょうね。 (あるいは、何が問題なのかわからない?) 数学に限らず、「何か新しいこと」を作り出そうと思ったら、 「はて、どうして、こんなことをするのだろう」という態度は、 極めて重要ではあります。 「そんなこと、どうでもいいや」という所からは、 進歩がない気がしますが、まあ、他の所でがんばりますか。

「お知らせ」するのをうっかりしていましたが、 11月9日、11月16日は休講です。 (補講については、最終試験の後に考えてみます。)
試験結果については、「受講者名簿」が手に入ったら、掲示します。 (今月中旬くらい?)

11月30日

いろいろな事情により、途切れていましたが、今日から再開です。

今日は、いくつかの典型的な留数計算をしました。 ついでに、円分方程式で「脱線」もしましたが、こういった話題は、 どこでやるべきなのか、なかなか迷います。 (単純に「代数」というよりは、もっと汎用性があるべきものなので。)

留数計算では、テーラー展開の公式を組み合わせた計算が多用されます。 授業の中でも、少し詳しく説明しておきましたが、実際に体感してみてください。 あと、積分路の一部を極限を取って「飛ばす」際の、評価の考えも。 (この辺は、出鱈目にやると計算が破綻します。 破綻する例を考えてみるのも一興。)

12月7日

今日は、多少概念的な話が中心でした。

一致の定理から始まって、解析接続に至る流れは、 最終的には、リーマン面の理論に行きつくのでしょうが、 まあ、本格的な話は無理なので、対数関数に限定した解説に今日は終始しました。 それも、「消極的な解決法」に限定して。

「言葉」が多すぎるのもかんがえもので、反省してますが、 次回は、「積極的な解決法」としてのリーマン面の話をして、 そのあとで、冪関数が関係する定積分の計算への応用を解説します。 こういった、積分計算への応用は、それだけで膨大なものがあり、 なかなか網羅的とは行きませんが、もう、飽きてきました? でも、試験には出しやすいので、少しは練習しておいてみてください。。

12月14日

先週の続きとして、対数関数と冪関数のリーマン面の話をしました。 リーマン面は、楕円関数あたりまで行かないと、面白くないのですが、 リーマン球(面)が時間の関係で説明できなかったのは残念。
これについては、1月に1・2回解説することにします。 (代数学の基本定理とか、リーマンの写像定理とか。)

来週の試験の範囲についても説明しました。
一つは、 留数定理を使った積分計算、と言っただけでは雲をつかむような範囲なので、
1/(多項式)
の積分計算に限定します。円分方程式、オイラーの公式、留数の計算、 あたりを復習しておいて下さい。
二つ目は、対数関数を複素変数に拡張する、あたりを復習しておいて下さい。 (12月7日・14日の授業のあたりです。)

寒くなって、かぜが目立ってきました。
「教養中心」は、大学の「総合学習化」のようです。
数年前に、全国の(国公立)大学から「教養部」を一掃させた張本人が、いまさら何を! という怒りの矛先はどこに向けるべきでしょうか。
真摯に応対するあまり、心労のため、死にさえ至った諸先輩方に何と申し開き してよいものやら。泣けてきます。

12月21日

きょうの試験はいかがでしたでしょうか。 (comtest2.ps, comtest2.pdf
1回目の試験で、「線積分」の理解が不足していると感じたので、 対数関数(の解析接続)に名を借りて、問題に作ってみました。 等比級数への展開のところでてこずっている人もいたようですが、 まあ、良しとしましょう。

代わりにという訳でもないのでしょうが、 留数の定理があやふやな人が複数いました。 (閉曲線ではない線積分について何か書いている。)

授業で、これだけ詳しく試験範囲を明かした以上、 「全然勉強していない」のでしょうね、とか嫌味を言っても、 見てないのだろうなあ、そういう人達は。

これまでで、丸3個の人は、良い冬休みを! そうでない人達も、来年こそ、めざせ、丸3個。

1月11日

授業も残り少なくなってきました。 今日は、正月休み明け、ということもあって、 雑談的な話題を二つしたあとで、最大値原理に取りかかりました。

この最大値原理(最大絶対値原理とも言う)は、 見かけは全然大した内容でないように思われるかも知れませんが、 実は不等式の証明で絶大な威力を発揮する、「優れもの」です。 (他にも、いろいろな使い道はありますが。)

今日のところは、どの本にも書いてある、定理の説明をしましたが、 次回(とその次?)で、「三線定理」と呼ばれる面白い不等式を 紹介する予定です。

あと試験の予告をしておくと、三回目の試験を2月1日に、 4回目の試験を2月8日に予定していて、それで全部です。

1月18日

数学の推論のロジックに関係した部分は、とても大事なのですが、 「数学者」はうっかりすっとばしてしまいがちです。 ある程度は、「慣れ」でもあるのですが、 「ギャップ」を感じたら、遠慮なくつっこんで下さい。

高校生の感じる「違和感」という、くだらない(?)ことを 話してしまいましたが、定数関数は最大値を取ると言っていいのかどうか、 不安を感じた人は要注意です。

さて、どの教科書ににも書いてある、「代数学の基本定理」はいいとして、 三線定理(three line theorem)について解説しました。 日本語の本では説明してあることが稀な定理ですが、 ある種の不等式では大いに威力を発揮します。

次回は、その具体例と、2月1日に行う試験の範囲について解説予定です。

1月25日

時は、「あっ」という間もなく過ぎて、この授業、最後の話題として、 今日は、三線定理の応用として、ヘルダーの不等式を証明してみました。 ヘルダーの不等式そのものは初等的な方法でも示すことができますが、 今回の複素解析的な手法は、より汎用性の高い、interpolation theory、 へと繋がっていきます。

応用の入り口にたどり着いた所で、この授業は実質的に終了します。 応用もさることながら、複素数の数学の「神秘」を感じていただければ、 幸いです。

来週は、3回目の試験をします。大部分の人にとって、 これが最後の試験になるでしょう。
試験範囲は、 基本に返って、コーシーの積分定理と線積分との関係とします。
具体的には、 有理関数の線積分を特異点がある場合とない場合に分けて出題の予定です。

2月1日

今日、3回目の試験を行いました。 (comtest3.ps, comtest3.pdf) 大多数の人は、これで終了となります。 1番の問題は、「ひっかけ」の悪い問題でしたが、 これと大同小異のものがよく本に載っていて、 「けしからん」と思うような人は、ひっかからない?
来週の試験(これが完全に最終となります)は、 合格点に達していない人で、かつ3回までの点数が2点以上の人 (4回目の試験で合格点に達する可能性のある人)を対象とします。

来週の試験範囲は、過去3回の範囲全てを考えていますが、 とくに、(1)オイラーの公式と複素数の計算、 (2)留数定理を使った定積分の計算を重点的に復習しておいて下さい。

合格点に達していても、復習する時間が足りなかった人は、 なかなか「身につく」というところまで行かなかったかも知れませんが、 「必要があればもう一度自分で勉強しなおせる」 レベルには到達したものとしておきます。

この授業に限らないのですが、 総じて、文章で筋道立てて説明するのが不得意な印象を受けました。 (人のことは言えませんが。)
3年の授業がほぼ終わった、今の時点では遅きに失した感もありますが、 「卒業研究」に進まれる方は、とくに、その辺を意識的に「練習」 しておくと良いでしょう。
「数学を勉強して何になる?」という声もありますが、 こういった「訓練」は、「科学的」と形容されるあらゆる場所で、 きわめて基本的な意味を持ってきます。 どうぞ、「自信と矜持」を持って、取り組んでください。

2月8日

最後の試験を行いました。
最終の成績は二階渡り廊下付近の掲示板に出してあります。 疑問点がある場合は、至急連絡してください。


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