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連立1次方程式


$ A$$ m\times n$ 行列とし、連立1次方程式

$\displaystyle A{\overrightarrow x}= 0,
\qquad
{\overrightarrow x}=
\begin{pmatrix}
x_1\\
\vdots\\
x_n
\end{pmatrix}$

を考える。 このように定数項が零であるような方程式を斉次型 (homogeneous) と呼ぶ。ベクトルの集合

$\displaystyle V = \{{\overrightarrow x}; A{\overrightarrow x}= 0\}
$

をその解空間 (the space of solutions) とよぶ。 ベクトル $ {\overrightarrow x}$ に対して、

$\displaystyle A{\overrightarrow x}= 0 \iff B{\overrightarrow x}= 0 \iff C{\overrightarrow x}= 0 \iff D{\overrightarrow x}= 0.
$

ここで、$ B$$ A$ の2つの行を入れ替えた行列。$ C$$ A$ のどこかの行に 別の行の定数倍を加えたもの。 $ D$$ A$ のどれかの行に 0 でない数を掛けたもの。

結論として連立1次方程式 $ A{\overrightarrow x}= 0$ の解空間は、 行列 $ A$ に上の3種類の操作を繰り返し施して行列の形を変えていっても 変化しない。

  1. $ A$ の行を入れかえる。
  2. $ A$ のいずれかの行の定数倍を別の行に加える。
  3. $ A$ の何れかの行に 0 でない数を掛ける。

連立1次方程式の解法の基本は、 この3種類の操作を繰り返すことにより、最初に与え られた行列を階段行列 (echelon matrix) に変形することにある。

ここで、階段行列とは、左下に 0 がならび、上から一段ずつ行成分 が減っていく形のもの。 $ j_1, j_2, \dots j_r$ 列に階段の角が現れるとすると、 0 でない行が $ r$ 行続いて階段行列になる。

$\displaystyle \bordermatrix{
& & & & j_1 & & j_2 & \dots & j_r & \cr
& 0 & \dot...
... & \dots \cr
& 0 & & & & \dots & & & & 0 \cr
& \vdots & & & & & & & & \vdots
}
$

定理 6.1   最初の二種類の操作の有限回の繰り返しで、 全ての行列は階段行列に変形可能である。

問 18   変形のアルゴリズム[ガウスの掃き出し法 (Gaussian elimination) という]について検証せよ。

Remark   階段行列は、さらに階段の各コーナーの成分が $ 1$ でさらに コーナーを含む列の他の成分はすべて 0 であるように 変形しなおすことができる。このような階段行列を 簡約された (reduced) と呼ぶことにする。


定義 6.2   $ m\times n$ 行列 $ A$ を階段行列に変形したときの 0 でない階段の数を行列 $ A$階数 (rank) と呼び $ r(A)$ と書く。 ( $ r(A) \leq m$, $ r(A)\leq n$ に注意。)


例題 6.3   階段行列への変形の具体例

連立一次方程式(斉次型)の解法

階段行列に対しては、下の行から連立1次方程式を解いていく。 まず、$ r$ 行の式から、$ x_{j_r}$ を 変数 $ x_{j_r + 1}, \dots, x_n$ の1次式で表すことができる。 次に、$ r-1$ 行の式から、 $ x_{j_{r-1}}$ $ x_{j_{r-1} + 1}, \dots, x_n$ で表すことができるが、 このうち $ x_{j_r}$ は、 $ x_{j_r + 1}, \dots, x_n$ で表されるので、 この段階で自由に選べる変数は、 $ x_{j_{r-1} + 1}, \dots, x_{j_r - 1}$ $ j_r - j_{r-1} - 1$ 個。

以下、これを繰り返すと、 $ x_{j_1},\dots, x_{j_r}$ をそれ以外の 変数について解いた式が得られる。

階段行列が簡約された形のときには、この議論は次のように簡単になる: ベクトル $ {\overrightarrow x}$ の成分を 階段のコーナーとして現れる列成分 $ x'$ とそれ以外の成分 $ x''$ に分ければ、 考えている連立一次方程式は、$ x'$$ x''$ の一次式で表される、という 形になるので、$ x''$ を任意定数として即座に解くことができる。


例題 6.4   ここで階段行列に対する連立1次方程式の解き方について 具体例で説明する。解の表示のさせ方。 (ここだけは、実際にやって見せないと、分かりづらい。 本で読むのは効率が悪いということ。)

問 19   各自、問題を自分で作り計算練習を行う。


$ d$ 個の列ベクトル $ {\overrightarrow x}_1,\cdots {\overrightarrow x}_d$ の間に1次式の関係がないとき、 すなわち、

$\displaystyle \sum_{i=1}^d\lambda_i{\overrightarrow x}_i = 0
$

をみたすような数 $ \lambda_1,\cdots,\lambda_d$ は、自明なもの以外にないとき、 ベクトルの集団 $ {\overrightarrow x}_1,\cdots,{\overrightarrow x}_d$1次独立 (linearly independent) であると呼ぶ。

いま、行列 $ A$ の階段行列への変形 $ A'$ が一つ得られたとする。このとき $ V$ に属するベクトルの集団 $ {\overrightarrow x}_1,\cdots,{\overrightarrow x}_d$ ( $ d = n-r(A)$) を 連立1次方程式 $ A'{\overrightarrow x}= 0$ を解くことにより定めれば、これらは、 1次独立でかつ $ V$ の勝手なベクトルは、 $ {\overrightarrow x}_1,\cdots,{\overrightarrow x}_d$ の1次式で 書くことができる。一般に解空間 $ V$ の中から選んだベクトルの集まり $ {\overrightarrow x}_1,\cdots,{\overrightarrow x}_d$

  1. 1次独立である、
  2. $ V$ の勝手なベクトル $ {\overrightarrow x}$ $ {\overrightarrow x}_1,\cdots,{\overrightarrow x}_d$ の1次式で書ける、
なる2条件を満たすとき、 その集団を解空間 $ V$基底 (basis) と呼ぶ。 連立一次方程式が自明であるとき、すなわち $ A = 0$ で、解空間 $ V$ がすべてのベクトルから成るときは、$ V$ を省略して 単に基底という言い方をする。


Remark   基底といった場合には、集団の順序をも問題にする。 従って、 $ {\overrightarrow x}_1,{\overrightarrow x}_2,\cdots,{\overrightarrow x}_d$ $ {\overrightarrow x}_2,{\overrightarrow x}_1,\cdots,{\overrightarrow x}_d$ とは 別の基底と考える。

問 20   具体的な斉次型連立一次方程式の解空間について、その基底を求める。 (ベクトルを並べたものが基底なので、解の一般形を書いただけではだめである。)


命題 6.5   解空間の基底の個数と行列の階数の和は $ n$ に等しい。

補題 6.6   $ A$$ m\times n$ 行列、$ B$$ n\times m$ 行列 とし、$ AB = I_m$ とすると、$ m \leq n$ である。


証明. 仮に、$ m>n$ としよう。$ B$ の階段行列への変形を考えれば、 $ B{\overrightarrow x}= 0$ となる $ m$ 次の列ベクトル $ {\overrightarrow x}\not= 0$ が存在する。ところが、 $ AB{\overrightarrow x}= I_m{\overrightarrow x}= {\overrightarrow x}$ だから矛盾。

[別解] $ m>n$ と仮定する。行列 $ A$ にサイズ $ m$ の零列ベクトルを $ m-n$ 個付け加えた $ m\times m$ 行列を $ A'$ とし、 行列 $ B$ にサイズ $ m$ の零行ベクトルを $ m-n$ 個付け加えた $ m\times m$ 行列を $ B'$ で表せば、簡単な計算で $ AB = A'B'$ であることがわかるので、

$\displaystyle 1 = \vert I_m\vert = \vert A'B'\vert = \vert A'\vert \vert B'\vert = 0
$

となって矛盾である。 $ \qedsymbol$


定理 6.7    
  1. 連立1次方程式 $ A{\overrightarrow x}= 0$ の解空間には基底がかならず 存在する。
  2. 解空間 $ V$ の基底を構成するベクトルの個数は基底の選び方によらずに 一定である。
  3. 行列の階数は、階段行列の作り方によらない。


証明. (i) はすでに見た。

(ii) を見るために $ {\overrightarrow x}_1,\cdots,{\overrightarrow x}_r$, $ {\overrightarrow y}_1,\cdots,{\overrightarrow y}_s$ を2組の基底と しよう。基底の2番目の性質により、

$\displaystyle {\overrightarrow x}_i = \sum_j b_{ji}{\overrightarrow y}_j, {\overrightarrow y}_j = \sum_ic_{ij}{\overrightarrow x}_i
$

と書ける。これらを相互に代入して基底の性質 (i) を使うと、

$\displaystyle BC = I_s,\quad CB = I_r
$

という関係が得られる。ここで、例題を使えば、$ r\leq s$, $ s\leq r$, すなわち $ r = s$ が得られた。

(iii) は、階段行列から基底が作られることおよび (ii) の主張より従う。 $ \qedsymbol$

定義 6.8   解空間 $ V$ の基底を形成するベクトルの個数を $ V$次元 (dimension) とよび、記号 $ \dim V$ で表す。

一般の(非斉次型)連立一次方程式

$\displaystyle A{\overrightarrow x}= {\overrightarrow b}
$

を解くには、$ m\times n$ 型行列 $ A$ の最後の列に列ベクトル $ {\overrightarrow b}$ を付け加えた $ m\times (n+1)$ 行列 $ B = ({\overrightarrow a}_1,\dots{\overrightarrow a}_n,{\overrightarrow b})$ を階段行列に変形し、それを $ A$ の階段行列 への変形部分、すなわち最初の $ n$ 列目までの部分、と見比べる。

問 21   具体例で上の方法を確認せよ。




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Yamagami Shigeru 平成14年12月23日