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を
行列とし、連立1次方程式
を考える。
このように定数項が零であるような方程式を斉次型 (homogeneous)
と呼ぶ。ベクトルの集合
をその解空間 (the space of solutions) とよぶ。
ベクトル
に対して、
ここで、
は
の2つの行を入れ替えた行列。
は
のどこかの行に
別の行の定数倍を加えたもの。
は
のどれかの行に 0 でない数を掛けたもの。
結論として連立1次方程式
の解空間は、
行列
に上の3種類の操作を繰り返し施して行列の形を変えていっても
変化しない。
の行を入れかえる。
のいずれかの行の定数倍を別の行に加える。
の何れかの行に 0 でない数を掛ける。
連立1次方程式の解法の基本は、
この3種類の操作を繰り返すことにより、最初に与え
られた行列を階段行列 (echelon matrix) に変形することにある。
ここで、階段行列とは、左下に 0 がならび、上から一段ずつ行成分
が減っていく形のもの。
列に階段の角が現れるとすると、
0 でない行が
行続いて階段行列になる。
定理 6.1
最初の二種類の操作の有限回の繰り返しで、
全ての行列は階段行列に変形可能である。
問 18
変形のアルゴリズム[ガウスの掃き出し法
(Gaussian elimination) という]について検証せよ。
Remark
階段行列は、さらに階段の各コーナーの成分が

でさらに
コーナーを含む列の他の成分はすべて 0 であるように
変形しなおすことができる。このような階段行列を
簡約された (reduced) と呼ぶことにする。
定義 6.2

行列

を階段行列に変形したときの 0
でない階段の数を行列

の
階数 (rank) と呼び

と書く。
(

,

に注意。)
連立一次方程式(斉次型)の解法
階段行列に対しては、下の行から連立1次方程式を解いていく。
まず、
行の式から、
を
変数
の1次式で表すことができる。
次に、
行の式から、
を
で表すことができるが、
このうち
は、
で表されるので、
この段階で自由に選べる変数は、
の
個。
以下、これを繰り返すと、
をそれ以外の
変数について解いた式が得られる。
階段行列が簡約された形のときには、この議論は次のように簡単になる:
ベクトル
の成分を
階段のコーナーとして現れる列成分
とそれ以外の成分
に分ければ、
考えている連立一次方程式は、
が
の一次式で表される、という
形になるので、
を任意定数として即座に解くことができる。
例題 6.4
ここで階段行列に対する連立1次方程式の解き方について
具体例で説明する。解の表示のさせ方。
(ここだけは、実際にやって見せないと、分かりづらい。
本で読むのは効率が悪いということ。)
問 19
各自、問題を自分で作り計算練習を行う。
個の列ベクトル
の間に1次式の関係がないとき、
すなわち、
をみたすような数
は、自明なもの以外にないとき、
ベクトルの集団
は
1次独立 (linearly independent) であると呼ぶ。
いま、行列
の階段行列への変形
が一つ得られたとする。このとき
に属するベクトルの集団
(
) を
連立1次方程式
を解くことにより定めれば、これらは、
1次独立でかつ
の勝手なベクトルは、
の1次式で
書くことができる。一般に解空間
の中から選んだベクトルの集まり
が
- 1次独立である、
の勝手なベクトル
が
の1次式で書ける、
なる2条件を満たすとき、
その集団を解空間
の基底 (basis) と呼ぶ。
連立一次方程式が自明であるとき、すなわち
で、解空間
がすべてのベクトルから成るときは、
を省略して
単に基底という言い方をする。
Remark
基底といった場合には、集団の順序をも問題にする。
従って、

と

とは
別の基底と考える。
問 20
具体的な斉次型連立一次方程式の解空間について、その基底を求める。
(ベクトルを並べたものが基底なので、解の一般形を書いただけではだめである。)
命題 6.5
解空間の基底の個数と行列の階数の和は

に等しい。
補題 6.6

を

行列、

を

行列
とし、

とすると、

である。
定理 6.7
- 連立1次方程式
の解空間には基底がかならず
存在する。
- 解空間
の基底を構成するベクトルの個数は基底の選び方によらずに
一定である。
- 行列の階数は、階段行列の作り方によらない。
証明.
(i) はすでに見た。
(ii) を見るために
,
を2組の基底と
しよう。基底の2番目の性質により、
と書ける。これらを相互に代入して基底の性質 (i) を使うと、
という関係が得られる。ここで、例題を使えば、

,

,
すなわち

が得られた。
(iii) は、階段行列から基底が作られることおよび (ii) の主張より従う。
定義 6.8
解空間

の基底を形成するベクトルの個数を

の
次元
(dimension) とよび、記号

で表す。
一般の(非斉次型)連立一次方程式
を解くには、
型行列
の最後の列に列ベクトル
を付け加えた
行列
を階段行列に変形し、それを
の階段行列
への変形部分、すなわち最初の
列目までの部分、と見比べる。
- 階段の数が増えていれば(すなわち行列
,
の階数が違っていれば)、
解は存在しない。
- 階段の数が同じであれば、斉次方程式の場合と同様に、自由に選べる変数
を下の方から勝手に選んできて、段差のところの変数は方程式から決めていく
という方法を繰り返すと、解が存在し、解の不定性の自由度が自由に選べる
変数の数(
)だけあることもわかる。
問 21
具体例で上の方法を確認せよ。
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Yamagami Shigeru
平成14年12月23日