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自由群の定義

集合$X$から生成された自由群$($free group$)$ $F(X)$とは, 次の性質をみたす群のことである $;$

    このような$F(X)$は存在すれば, 同型を除いて一つしかない. 実際, もう一つ$F'(X)$があったとすると, 包含 写像 $X\subset F'(X)$は準同型 $\varphi:F(X)\rightarrow F'(X)$に拡張され, また$F(X)$$F'(X)$の 役割を取りかえると, $X$の上で恒等的な準同型 $\varphi ':F'(X) \rightarrow F(X)$を得る. そこで, 合成 $\varphi '\circ\varphi : F(X) \rightarrow F(X)$を 考えると, これは $X$の上では恒等的なので, 包含写像$X\subset F(X)$の拡張になって いる. 一方, 包含写像を拡張する準同型として$F(X)$の恒等写像 もあるので, 拡張の一意性 から, $\varphi '\circ \varphi=1_{F(X)}$で あることがわかる. 同様に $\varphi \circ \varphi '=1_{F'(X)}$も 示せるので, $F(X)$$F'(X)$は同型である.
    さて, $F(X)$の存在の方であるが, これを示す前に 言葉をいくつか 準備しておく. 与えられた集合$L$に対して, $L$の元の 有限列を $L$に おける$($word$)$と呼ぶ. (文字)集合$L$における語全体を 記号$W(L)$で表 す. 語 $w=(w_{1\ },\ \cdots\ ,\ w_{n\ })$に対して, $n$を 語の長さ$($length$)$ と呼び, 記号$\vert w\vert$で表す. 空集合も長さ$0$の語と考え, $W(L)$の 中に含めておく. ``空な語''を記号$e$で表す.
    $2$つの語 $v=(v_{1},\ \cdots,\ v_{m})\ ,\ w
=(w_{1},\ \cdots,\ w_{n})$ に対して, これらを連結$($concatenate$)$した語 $(v_{1},\ \cdots,\ v_{m},\ w_{1},\ \cdots,\ w_{n})$を 記号 $v\circ w$で表す. ``空な語'' $e$ に 対しては, $e\circ w=w \circ e=w$ であると約束する. この演算により$W(L)$は半群$($monoid$)$と なる.
    さて, $F(X)$を構成する問題に戻って, 与えられた 集合$X$に対して $X$のダミー$X'$を用意しておく. すなわち, 集合$X'$$X$と 共通部分を もたず, $X$から$X'$への全単射が与えられているものと する. 以下では, この 全単射を $x \mapsto x'$という記号で表すことにする.
    次に, 半群 $W=W(X \sqcup X')$を 考える. 語$w\in W$は, $w$の中に $x,\ x'$ または $x',\ x$ の形の隣接文字が 現われないときに, 被約語 $($reduced word$)$という言い方をする. 語$w$が被約語 でないときには, $w$の中に出現する $x,\ x'$ または $x',\ x$ の形の 連続する二文字を取り去ること により, 語の長さを$2$減らす操作$($reduction$)$を 考える. 二文字を消去した後も被約語になっていなければ,この操作を 繰り返すことにより, 最終的に被約語を得ることができる.

補題 5.1   語のreductionで得られる被約語 はreductionの履歴によらない.

証明
語の長さに関する帰納法により証明する. 長さが$2$以下の 場合は, reduction
の仕方はただ一つの方法のみであるから, 主張は 明らかである. 長さが$3$
場合には, 複数の reductionが可能な語は $(\ x,\ x',\ x\ )$ ま たは $(\ x',\ x,\ x'\ )$
の場合で, このとき reductionを行う場所の如何に 関わらず, 結果は同一で
あるので, やはり主張は正しい. 長さが$4$以上の場合 には, 最初のreduction
を行う場所として, この長さが$3$の場合の パターンの他に, 干渉しない$2$
所での選択の可能性が出てくる. すなわ ち, $w=u \circ v$ の形で, $u$$\tilde{u}$にreduce
するか, $v$$\tilde{v}$にreduceするかで$2$つの選択が 生じる. ところ が, $\tilde{u} \circ v\ ,\ u \circ \tilde{v}$
ともに, reductionの 途中経過として $\tilde{u} \circ \tilde{v}$ という語を 選ぶことができるの
で, 帰納法の仮定により, $\tilde{u} \circ v$を被約した語 は $\tilde{u} \circ \tilde{v}$ を被約した語に 等しい.
同様に, $u \circ \tilde{v}$ を被約した語 は $\tilde{u} \circ \tilde{v}$ を被約した語にも 等しいので, いずれの
場合も同一の被約語になっている. $_□$

    以上の準備のもとに, $F(X)$の構成は次の ようにする. まず, $X \sqcup X'$の被約語全体を$F(X)$とする. 積 は, $v,\ w \in F(X)$ に 対して $v \circ w\in W$の定める被約語 $vw$と 定義する. $3$つの被約語 $u,\ v,\ w$ に対して, $(uv)w,\ u(vw)$ とも に $u \circ v \circ w$ を被約した語になっているので, 上の補題5.1か ら一致する.
    被約語$w$に対して, $w$の各成分で 置き換え $x\leftrightarrow x'$ を行い, 並べる順序を反転させたものを$w'$で表せば, $ww'=w'w=e$ であるので, $F(X)$は群となる. さら に, $x \in X$ を長さ$1$の語$(x)$と同一視すれば, $X\subset F(X)$と なる. $F(X)$ においては, $x',\ w'$ $x^{-1},\ w^{-1}$に他ならない.
    次に, 群$G$と 写像 $f:X\rightarrow G$ に対して, まず, $f$ を写像 $X \sqcup X' \rightarrow G$
$x' \mapsto f(x)^{-1}$ で拡張し, さらに $\hat{f}:W\rightarrow G$ $\hat{f}(w)
=f(w_{1})\cdots f(w_{n})$ とおく. このとき, 単語$w$に被約操作をおこなったものの一つを $\tilde{w}$ で表せば, $\hat{f}(w)
=\hat{f}(\tilde{w})$ であるので, $\hat{f}$$F(X)$への制限は, 群の準同型になり, $f$の 拡張の存在が 示せた. 拡張の一意性は, 作り方から明らかであるので, これで 自由群$F(X)$ の存在を示せたことになる.
    集合$X$から自由群$F(X)$が生成されるとき, $F(X)$の構成に 用いられる$X$の元を生成元とよび, 特にn個の生成元 からなる集合の上の自由群を$F_{n}$と表す. また, この とき, この自由群は階数nの自由群であるともいう. 例え ば, 階数$2$の自由群とは$F_2$のことである.


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Yamagami Shigeru 平成15年2月14日