次へ:
自由群の逆説性
上へ:
自由群
戻る:
自由群
自由群の定義
集合
から生成された自由群
free group
とは, 次の性質をみたす群のことである
は
を部分集合として含む.
与えられた群
と写像
に対して,
は準同型
に一意的に 拡張される. ここで、写像
が準同型であるとは、
が全ての
について 成り立つこと。
このような
は存在すれば, 同型を除いて一つしかない. 実際, もう一つ
があったとすると, 包含 写像
は準同型
に拡張され, また
と
の 役割を取りかえると,
の上で恒等的な準同型
を得る. そこで, 合成
を 考えると, これは
の上では恒等的なので, 包含写像
の拡張になって いる. 一方, 包含写像を拡張する準同型として
の恒等写像 もあるので, 拡張の一意性 から,
で あることがわかる. 同様に
も 示せるので,
と
は同型である.
さて,
の存在の方であるが, これを示す前に 言葉をいくつか 準備しておく. 与えられた集合
に対して,
の元の 有限列を
に おける
語
word
と呼ぶ. (文字)集合
における語全体を 記号
で表 す. 語
に対して,
を 語の長さ
length
と呼び, 記号
で表す. 空集合も長さ
の語と考え,
の 中に含めておく. ``空な語''を記号
で表す.
つの語
に対して, これらを連結
concatenate
した語
を 記号
で表す. ``空な語''
に 対しては,
であると約束する. この演算により
は半群
monoid
と なる.
さて,
を構成する問題に戻って, 与えられた 集合
に対して
のダミー
を用意しておく. すなわち, 集合
は
と 共通部分を もたず,
から
への全単射が与えられているものと する. 以下では, この 全単射を
という記号で表すことにする.
次に, 半群
を 考える. 語
は,
の中に
または
の形の隣接文字が 現われないときに,
被約語
reduced word
という言い方をする. 語
が被約語 でないときには,
の中に出現する
または
の形の 連続する二文字を取り去ること により, 語の長さを
減らす操作
reduction
を 考える. 二文字を消去した後も被約語になっていなければ,この操作を 繰り返すことにより, 最終的に被約語を得ることができる.
補題 5.1
語のreductionで得られる被約語 はreductionの履歴によらない.
証明
語の長さに関する帰納法により証明する. 長さが
以下の 場合は, reduction
の仕方はただ一つの方法のみであるから, 主張は 明らかである. 長さが
の
場合には, 複数の reductionが可能な語は
ま たは
の場合で, このとき reductionを行う場所の如何に 関わらず, 結果は同一で
あるので, やはり主張は正しい. 長さが
以上の場合 には, 最初のreduction
を行う場所として, この長さが
の場合の パターンの他に, 干渉しない
箇
所での選択の可能性が出てくる. すなわ ち,
の形で,
を
にreduce
するか,
を
にreduceするかで
つの選択が 生じる. ところ が,
ともに, reductionの 途中経過として
という語を 選ぶことができるの
で, 帰納法の仮定により,
を被約した語 は
を被約した語に 等しい.
同様に,
を被約した語 は
を被約した語にも 等しいので, いずれの
場合も同一の被約語になっている.
以上の準備のもとに,
の構成は次の ようにする. まず,
の被約語全体を
とする. 積 は,
に 対して
の定める被約語
と 定義する.
つの被約語
に対して,
とも に
を被約した語になっているので, 上の補題
5.1
か ら一致する.
被約語
に対して,
の各成分で 置き換え
を行い, 並べる順序を反転させたものを
で表せば,
であるので,
は群となる. さら に,
を長さ
の語
と同一視すれば,
と なる.
においては,
は
に他ならない.
次に, 群
と 写像
に対して, まず,
を写像
に
で拡張し, さらに
を
とおく. このとき, 単語
に被約操作をおこなったものの一つを
で表せば,
であるので,
の
への制限は, 群の準同型になり,
の 拡張の存在が 示せた. 拡張の一意性は, 作り方から明らかであるので, これで 自由群
の存在を示せたことになる.
集合
から自由群
が生成されるとき,
の構成に 用いられる
の元を
生成元
とよび, 特にn個の生成元 からなる集合の上の自由群を
と表す. また, この とき, この自由群は
階数nの自由群である
ともいう. 例え ば, 階数
の自由群とは
のことである.
次へ:
自由群の逆説性
上へ:
自由群
戻る:
自由群
Yamagami Shigeru 平成15年2月14日