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行列式を
個の
次列ベクトル
の関数
と思ったとき、(i) 列に関する線型性、(ii) 列に
関する交代性、(iii) 規格化条件
を満たす。
ここで、
は単位行列を縦割にしたとき現れる列ベクトルの集団で
基本ベクトルと呼ばれる。
この節の目標は、この性質が行列式を特徴づけていること。
目標:
個のベクトル
の関数
で、線型性と交代性を満たすものがあれば、それは
行列式の定数倍になる。さらに規格化条件もみたせば、行列式に一致する。
基本ベクトルを使うことにより、
は
と表示される。数字
を並べ換えたものを
次の置換 (permutation) とよび
記号
,
等で表す。例:
[ここで、ギリシャ文字について一言。
,
は sigma, tau と発音する。]
置換
の
番目の数字を
で表す:
.
補題 4.1
与えられた

次の置換

に対して
証明.
等式
から出発して左辺の

および右辺の

のなかの2つの列ベクトルを
入れ替えるたびに両辺の符号が同時に反転し、上の式の等号が成り立ち続ける。
勝手な置換はこのような2つの入れ替えを何回か繰り返して得られるので、
補題の等式が一般の置換で成り立つ。
証明.

の列に関する線型性により

の列に関する交代性により、

のなかに同じ数字が2ヶ所以上
現れると、

は 0 になる。
このような場合を除くと上の和は

(

は置換)という形のものだけを
考えれば良いことがわかる。すなわち
この右辺で補題を使えば、
一方

として行列式

をとると、行列式の規格化条件により
これら2つの表示式を合わせると定理の主張が得られる。
文字の置換
の符号 (signature) を
で定義する。
この定義の仕方と行列式の性質から、置換の符号は、もし置換が2文字の入れ替え
を偶数回行って実現されるならば、
,
2文字の入れ替えを奇数回行って実現されるならば、
となる。
問 13
勝手な置換は、2文字の入れ替えを繰り返すことにより実現できることを
示せ。(あみだ籤の原理。)
問 14

の場合に上の完全展開式を具体的に書き下してみよ。
(サラスの方法は覚えるべきでない。)
定理 3.1(行列式の性質)の証明
(i)行についての交代性を示そう。
行と
行 (
) を入れ替えることにして、
行列
に対して
それの
行と
行を入れ替えた行列
を
で表し
とおく。
行列式の列に関する性質(これは既に確かめてある)を使って、
が列に
ついての線型性と交代性を満たすことがわかる。そこで上の定理を適用すれば
ところが
はまた単位行列の
列と
列を
入れ替えたものに等しいので、
行列式の列に関する交代性と規格化条件により
以上を総合すると、
したがって、行に関する交代性が得られた。
次に特定の
行に注目して、
その
行を一つ前の行と次々入れ替えて最初の
行に持ってきて行列式の(帰納的)定義式を使えば、
行に関する展開式
が得られる。
ここで、
は
から
行と
列を取り除いた残りの
行列を表す。
は
行の成分を含まないから、
行目に関する線型性は上の展開式から明らか
(
行目の成分の1次式で書ける)。
次に転置行列についての性質を再び上の定理を使って
示そう:こんどは、
と置く。
証明したばかりの行に関する線型性・交代性により、
は定理の仮定を満たす。従って
(
に注意。)
この転置に対する不変性と行に関する展開式から列に関する展開式が得られる。
最後に行列の積に関する性質を示す。
すなわち
,
を
行列とし
が成り立つかどうかについて考える。
今、行列
は固定して、
行列
の列ベクトルを変数とする関数
を考える。
であるから、
は再度、定理の仮定を満たし、従って
(
に注意。)
例題 4.4
置換の符号と15パズル。復元できない配列について。
命題 4.5 (分解型行列式)

型行列

と

型行列

に対して、
問 15
分解型行列式の公式を示せ。
問 16

次の正方行列

の

-

成分

が
条件

for
を満たすとき、行列式

の値を

の積で表せ。
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Yamagami Shigeru
平成14年12月23日