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行列
で次の形のものを対角行列 (diagonal matrix) とよぶ。
与えられた
行列
に対して、逆をもつ行列
を適当に選んで
が対角行列になるようにする操作を行列の対角化
(diagonalization) と呼ぶ。
対角化の直接の御利益は冪の計算が簡単になること。
対角化の行列を見つけるために、
を縦割りにして
と表すと、
という関係は
となる。
そこで、行列
に対して、ベクトル
が
なる関係をみたすとき、
を固有値 (eigenvalue)
の
固有ベクトル (eigenvector) とよぶ。
定理 8.1
行列
![$ A$](img14.png)
の固有値
![$ \lambda$](img297.png)
は方程式(固有方程式, eigenequation, という)
の解である(左辺を固有多項式という)。
証明.
定理
7.4 による。
命題 8.2
行列
![$ A$](img14.png)
の固有多項式
![$ f_A(t) = \vert tI_n - A \vert$](img299.png)
は、
という形の
![$ t$](img108.png)
の
![$ n$](img92.png)
次式であり、相似変形で不変である。
証明.
行列式の完全展開式
で、
![$ t$](img108.png)
が含まれる因子は対角成分
![$ b_{11}, \dots, b_{nn}$](img303.png)
のみであるから、
一箇所でも対角成分でない因子が現れると、その項には他にも対角成分から
はずれる因子が現れることになり、そのような項に含まれる
![$ t$](img108.png)
の次数は
![$ n-2$](img304.png)
以下になる。従って、
![$ \vert tI_n - A\vert$](img305.png)
の中の
![$ t^n$](img306.png)
,
![$ t^{n-1}$](img307.png)
の係数は
対角成分の積
の中に含まれるそれと一致する。
定義 8.3
行列
![$ A$](img14.png)
の固有値
![$ \lambda_1,\dots, \lambda_r$](img309.png)
を使って、
固有多項式を
と因数分解するとき、
![$ m_j$](img311.png)
を固有値
![$ \lambda_j$](img312.png)
の
重複度
(multiplicity) という。
定義 8.4
行列
![$ A$](img14.png)
の固有値
![$ \lambda$](img297.png)
に対して連立1次方程式
![$ (\lambda I_n - A){\overrightarrow x}= 0$](img313.png)
の解空間を固有値
![$ \lambda$](img297.png)
の
固有空間
(eqigenspace) と呼び
![$ V_{\lambda}$](img314.png)
と書くことにする。
命題 8.5
行列
![$ A$](img14.png)
の固有値
![$ \lambda$](img297.png)
に対して、固有空間
![$ V_\lambda$](img315.png)
の次元は、
![$ \lambda$](img297.png)
の重複度以下である。
証明.
固有空間
![$ V_\lambda$](img315.png)
の基底を補って全体の基底を作り、行列
![$ A$](img14.png)
の
相似変形を行うと分解型の行列が得られるので、行列式の因子分解式を使う。
定理 8.6
行列
![$ A$](img14.png)
の異なる固有値全てに名前をつけて
![$ \{\lambda_1,\cdots,\lambda_r\}$](img316.png)
とする。
固有値
![$ \lambda_i$](img317.png)
の固有空間の次元を
![$ d_i$](img318.png)
、
その重複度を
![$ m_i$](img319.png)
で表す。
このとき
![$ A$](img14.png)
が対角化可能であるための必要十分条件は、
![$ d_i = m_i$](img320.png)
for
![$ 1\leq i \leq r$](img321.png)
.
証明.
対角化できれば、固有ベクトルからなる基底が存在するから、
これと
![$ d_i \leq m_i$](img323.png)
および
![$ \sum_i m_i = n$](img324.png)
と併せて、
等号の成立がわかる。
逆に、等号がなりたつとする。
を固有空間
の基底とする。
これらを一列に並べると、等号成立の仮定から、
個のベクトルの集団が
得られる。そこで、あとはこれが1次独立であることを言えばよい。
そのためには次の補題を使えばよい。
補題 8.7
異なる固有値に属する固有ベクトルは、互いに1次独立である。
証明.
![$ \lambda_1,\dots, \lambda_r$](img309.png)
を異なる固有値とし、
![$ {\overrightarrow x}_1,\dots, {\overrightarrow x}_r$](img327.png)
を対応する固有ベクトルとする。もし、
が成り立てば、
![$ {\overrightarrow x}_1 = \dots {\overrightarrow x}_r = 0$](img329.png)
である。
実際、
![$ (A-\lambda_1)\dots(A-\lambda_{r-1})$](img330.png)
をかけると、
から、
![$ {\overrightarrow x}_r = 0$](img332.png)
がわかる。
対角化の手続き
- ステップ1
- 固有方程式を解くことにより、固有値を求めると共に固有値の重複度を調べる。
- ステップ2
- 固有空間を連立一次方程式の解空間として実現し、
あわせて、固有空間の基底を求める。
- ステップ3
- ステップ2で求めた固有空間の次元とステップ1で求めた重複度が一致しない
固有値が一つでもあれば、扱っている行列が対角化できない。
そうでなければ、すなわち、全ての固有値に対して、固有空間の次元と重複度が
一致しているならば、各固有空間の基底をすべて並べることにより全体の基底
を得るので、対応する行列を
とおけば、
という形の対角化を得る。
行列の対角化の手続きで最も面倒な部分は、固有方程式を解く(固有値を求める)
部分である。行列のサイズが3以上の場合は、でたらめに選んだ行列に対してその
固有方程式は具体的には解きがたい。
よく本とかに載っている対角化の問題は、ではどうやって作るのかと言えば、
固有値と固有ベクトルを最初に与えてそれから、対角化する前の行列を
逆算するという「ずるい」方法を取らざるを得ない。
例題 8.8
与えられた固有値と固有ベクトルから、もとの行列を復元し、
復元した行列から逆に、上で述べた対角化の手続きに従って、
対角化を実行してみよう。
問 26
- 上の例で、
,
,
に色々な値を代入して対角化の手続きを確認する。
- 行列
およびその逆行列
の成分が全て整数となるような
行列はどのようにして作り出せるか考えてみる。
(ヒント:基本行列の場合に考察してみる。)
2行2列の行列については、固有方程式が2次方程式になることも
あって、全てのことを完全に記述することが可能である。
例えば、
と置いて、その対角可能性について調べてみよう。
まず固有方程式は、
となるので、これが異なる二つの解をもてば対角化可能となる
(何故か)。
そこで対角化できない可能性のあるのは、重根 (multiple root)をもつ場合、
すなわち
でなければならない。
このとき
の固有値は、
のただ一つである。
したがってこのような行列が対角化できるのは、
の場合、すなわち、
,
のときに限る。
まとめると、
行列
が対角化できるための必要十分条件は、
(i)
が単位行列のスカラー倍であるかまたは
(ii)
、である。
例題 8.9
行列
は、
![$ b \not= 0$](img350.png)
であれば、対角化できない。
問 27
上の例題で与えた行列の固有値と固有ベクトルを求めよ。
対角化の具体的応用例では、上で述べたような対角化そのものよりも、
固有値を固有ベクトルを求めたあとは、問題になっているベクトルを固有ベクトル
の和で表すだけで済むことが多い。
という状況を考えて、質点1の変位を
で、質点2の変位を
で表し、
それぞれのばねのばね定数を
,
,
とすれば、運動方程式は、
となる。そこで、右辺の行列の固有ベクトル
が見つかれば、
と置くことにより、
に帰着する。
問 28
三つのばね定数が共通の値
![$ k$](img355.png)
に近いとき、すなわち
![$ \alpha = a - k$](img356.png)
,
![$ \beta = b-k$](img357.png)
,
![$ \gamma = c-k$](img358.png)
が微小量であるとき、
行列
の固有値と固有ベクトルを求めよ。
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Yamagami Shigeru
平成14年12月23日