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逆行列と基底


$ n\times n$ 行列 $ A$ に対して

$\displaystyle AB = BA = I_n
$

となる $ n\times n$ 行列 $ B$$ A$逆行列 (inverse matrix) という。 $ A$ の逆行列は、あっても一つしかない。仮に、 $ AC = CA = I_n$ であれば、

$\displaystyle B = I_nB = CAB = CI_n = C
$

である。 逆行列は $ A$ だけで決まるので $ A^{-1}$ と書く。


例題 7.1    
  1. 積の逆行列。 $ (AB)^{-1} = B^{-1}A^{-1}$.
  2. 積の転置行列。 $ {}^t(AB) = {}^tB {}^tA$.
  3. 転置と逆行列。 $ {}^t(A^{-1}) = ({}^tA)^{-1}$.

問 22   上の3つを確かめよ。 (そろそろ、こういったことは一人でチェックできなくてはいけない。)


例題 7.2   基本変形を与える行列の逆行列。


$ A$ が逆行列をもてば $ \vert A\vert\,\vert B\vert = \vert AB\vert = \vert I_n\vert = 1$ から $ \vert A\vert \not= 0$ が出てくる。 逆に $ \vert A\vert \not= 0$ としよう。$ A_{ij}$$ A$ から $ i$$ j$ 列を除いた $ n-1$ 次の行列を表すと、$ j$ 行に関する展開式により

$\displaystyle \sum_k (-1)^{j+k}x_k\vert A_{jk}\vert$

$ A$$ j$ 行目をベクトル $ (x_1,\cdots,x_n)$ で置き換えた行列の行列式 に等しい。したがって、

$\displaystyle \sum_k (-1)^{j+k}a_{ik}\vert A_{jk}\vert = \delta_{ij} \vert A\vert.$

同じように $ j$ 列に関する展開式を使えば、

$\displaystyle \sum_k (-1)^{j+k}a_{ki}\vert A_{kj}\vert = \delta_{ij} \vert A\vert.$

そこで $ n\times n$ 行列を $ C = ((-1)^{i+j}\vert A_{ji}\vert)$ で定めれば、 上の2つの式は

$\displaystyle AC = CA = \vert A\vert E_n$

となるので、$ \vert A\vert^{-1}C$$ A$ の逆行列になっている。

これはクラメールの公式 (Cramer's rule) と呼ばれ有名であるが、 以下では使わない。


補題 7.3   $ \{{\overrightarrow x}_1,\cdots,{\overrightarrow x}_m\}$ を1次独立なベクトルの集まりと するとき、これにベクトルを補って基底にすることができる。

証明. 標準基底 $ \{ {\overrightarrow e}_1,\dots, {\overrightarrow e}_n \}$ の中のベクトルで、 $ {\overrightarrow x}_1,\dots,{\overrightarrow x}_m$ の一次式で書けないものが有ったときには、その書けない ベクトルを $ {\overrightarrow x}_{m+1}$ とおくと、 $ \{ {\overrightarrow x}_1,\dots,{\overrightarrow x}_m, {\overrightarrow x}_{m+1} \}$ は一次独立である。実際、

$\displaystyle t_1 {\overrightarrow x}_1 + \dots + t_m{\overrightarrow x}_m + t_{m+1} {\overrightarrow x}_{m+1} = 0
$

として、もし $ t_{m+1} \not= 0$ であれば、

$\displaystyle {\overrightarrow x}_{m+1} = \frac{t_1}{t_{m+1}} {\overrightarrow x}_1 + \dots +
\frac{t_m}{t_{m+1}} {\overrightarrow x}_m
$

となって、$ vx_{m+1}$ $ \{ {\overrightarrow x}_1,\dots, {\overrightarrow x}_m \}$ の一次式で 書き表せるので仮定に反する。したがって、 $ t_{m+1} = 0$ となって、

$\displaystyle t_1 {\overrightarrow x}_1 + \dots + t_m {\overrightarrow x}_m = 0
$

が得られるので、 $ \{ {\overrightarrow x}_1,\dots, {\overrightarrow x}_m \}$ が一次独立であることから、

$\displaystyle t_1 = \dots = t_m = 0
$

となって、 $ \{ {\overrightarrow x}_1,\dots,{\overrightarrow x}_m, {\overrightarrow x}_{m+1} \}$ の一次独立性が示された。

この議論を繰り返すと、最終的に一次独立なベクトルの集団 $ \{ {\overrightarrow x}_1, \dots, {\overrightarrow x}_l \}$ で、全ての $ {\overrightarrow e}_j$ が これらの一次式で表されるものが出現する。 任意のベクトルは標準基底の一次式で書き表されるので、 $ \{ {\overrightarrow x}_1, \dots, {\overrightarrow x}_l \}$ の一次式で全てのベクトルが表示できる。 すなわち、 $ \{ {\overrightarrow x}_1, \dots, {\overrightarrow x}_l \}$ は基底である。 $ \qedsymbol$


定理 7.4 (行列の基本定理)   次は同値。
  1. $ A$ は逆行列をもたない。
  2. $ \vert A\vert = 0$.
  3. $ A{\overrightarrow x}= 0$ となるベクトル $ {\overrightarrow x}\not= \overrightarrow 0$ がある。


証明. (i) $ \iff$ (ii) はすでにやった。(iii) $ \Rightarrow$ (i) は 明らか。

そこで、(ii) $ \Rightarrow$ (iii) を示す。 そのために (iii) の条件をもう少し 詳しく調べる。具体的には、連立1次方程式 $ A{\overrightarrow x}= \overrightarrow 0$ を 解いてみる。

ベクトル $ {\overrightarrow x}$ に対して、

$\displaystyle A{\overrightarrow x}= 0 \iff B{\overrightarrow x}= 0 \iff C{\overrightarrow x}= 0.$

ここで、$ B$$ A$ の2つの行を入れ替えた行列。$ C$$ A$ のどこかの行に 別の行の定数倍を加えたもの。したがって連立1次方程式 $ A{\overrightarrow x}= 0$ の解は、 行列 $ A$ に次の2種類の操作を繰り返し施して行列の形を変えていっても 変化しない。 この2種類の操作は、 $ A$ に左から特殊な行列(行基本行列)を掛けることによって も得られ、変形のどの段階でも行列式の値は 0 であり続ける。 従って変形によって得られた階段行列 $ A'$$ \vert A'\vert = 0$ をみたす。 階段行列は三角行列の形になっているので、$ \vert A'\vert = 0$ であるためには、 対角成分が 0 となる個所があることになり、 階段の段数は $ n$ よりも小さくなって、 解空間は自明でないベクトル $ {\overrightarrow x}$ を含まなければならない。

[別解] (iii) の否定を仮定すると、 $ \{ {\overrightarrow a}_1,\dots, {\overrightarrow a}_n \}$ は一次独立で、 従って基底となる。もし、基底でなければ基底を成すベクトルの個数が $ n$ を越えてしまう。 そこで、基本ベクトル $ {\overrightarrow e}_1, \dots, {\overrightarrow e}_n$ $ {\overrightarrow a}_1, \dots, {\overrightarrow a}_n$ の一次結合として表せば、その係数行列 $ B$ は、 $ BA = I_n$ を充たし、したがって $ \vert A\vert \not= 0$ となって (ii) の否定が 得られた。

以上により (i), (ii), (iii) の同値性が得られた。 $ \qedsymbol$

系 7.5   行列 $ A$ の列ベクトルの集団 $ \{ {\overrightarrow a}_1,\dots, {\overrightarrow a}_n \}$ が基底となる ための必要十分条件は、$ A$ が逆行列をもつことである。

問 23   行列

$\displaystyle \begin{pmatrix}
1 & 2 & 3\\
t & 1 & 0\\
1 & t & 1
\end{pmatrix}$

が逆行列をもたないとき、$ t$ の値を求めよ。

問 24   3次元数ベクトル空間で、ベクトル

$\displaystyle \begin{pmatrix}
1\\
1\\
1
\end{pmatrix}$

を含む基底を1組作れ。

問 25   逆をもつ行列は、行基本行列の有限個の積で書ける。 列基本行列の有限個の積でも書ける。




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Yamagami Shigeru 平成14年12月23日