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証明する上で必要な集合論の諸概念

「バナッハ・タルスキーのパラドックス」を証明する上で必要と なる, 集合論の知識をあげておく.


二項関係とは$\cdots $
    集合$X$に対する直積集合$X\times X$の各元$(a,b)$について, “満たすか満たさ
ないか”が判定できるような規則 ${\footnotesize\rho }$ を, 集合$X$上の二項関係という.
    対$(a,b)$ が二項関係 ${\footnotesize\rho }$を満たすことを $a\ {\footnotesize\rho }\ b$ と表す.

同値関係とは$\cdots $
次の$3$つの性質を同時に満足する集合$X$上の二項関係$\sim $同値関係という.

                任意の$x,y,z\in X$に対して

\begin{displaymath}
\begin{array}{ll}
(1)\ \ 各元xについて\ \ x\sim x & \bigl(...
...& \bigl(推移律\bigr)
\qquad \quad \quad \\
\\
\end{array} \end{displaymath}

半順序関係とは$\cdots $
次の$3$つの性質を同時に満足する集合$X$上の二項関係$\preceq $半順序関係
いう.

                $(1)$ 任意の$x \in X$に対して, $x \preceq x$             $\bigl($反射律$\bigr)$
                $(2)$ $x \preceq y$ かつ $y \preceq x$ なら ば, $x=y$     $\bigl($反対称律$\bigr)$
                $(3)$ $x \preceq y$ かつ $y \preceq z$ なら ば, $x \preceq z$         $\bigl($推移律$\bigr)$

    直和とは$\cdots $

    $2$つの集合$A,B$の和 $\bigl(合併集合\bigr)A\cup B$には, 一般に, 共通部分$A\cap B$
あるが, $A\cap B$がない場合は, 特に, $A\cap B$がある場合と 区別して, $A\cup B$
$A\sqcup B$ と表し, $A$$B$直和という. $\bigl(“\cup ”と“\sqcup ”の違いに注意\ !\ \bigr)$


分割とは$\cdots $
    ある集合$A$を, どの$2$つをとっても共通部分がない部分集合 $A_1,A_2,\cdots ,A_n$
の和で表すことができる, すなわち, $A=A_1\sqcup A_2\sqcup \cdots \sqcup A_n$ であるとき,
集合$A$は部分集合の集まり $\bigl\{A_{1\ },A_{2\ },\
\cdots \ ,A_n\bigr\}$分割できるという.
$\Bigl(\ A_1\sqcup A_2\sqcup \cdots \sqcup A_n
\ を\ \bigsqcup \limits_{i=1}^nA_i\ とも書く.\ \Bigr)$

定義 1.1   集合$X$に同値関係$\sim $が与えられたとき, $x \in X$に 対して,
$X$の部分集合

\begin{displaymath}
C(x)=\bigl\{\ y\in X\ \vert\ x\sim y\ \bigr\}
\end{displaymath}

を元$x$同値類という.
    同値類全体の集合を, 集合$X$の同値関係$\sim $による 商集合といい, $X/\sim$
と書く. 同値類$C$に属する各元を$C$代表という.

選択公理(ツェルメロ)
集合$X$が, 空でない部分集合の族に分割されているとする. このとき, 各部
分集合から一つずつ要素を選び出して, それらを集めることにより, 一つの
集合を作ることができる.

    これは, 選択公理と呼ばれるもので, 非常に便利なの だが, この公理の妥当
性に関しては種々の議論がある. しかし, 数学的に 重要な数々の定理の証明に
この公理を用いる. 一方で, この公理を仮定したが ために, 直観的には自然で
ないような定理も得られてしまう. 「バナッハ・タルスキーのパラドックス」 もそのような定理の一つといえる.


    「バナッハ・タルスキーのパラドックス」の 証明において, 選択公理は必要不可欠であるので, 選択公理 について, もう少しだけ説明しておくことにする.

    同値関係によって作られる同値類 とは, 簡単に言うと, 同じ性質を 持つもの同士のグループのことである. そして, これによって現れる グループの全体を $(同値関係による)$商集合と呼ぶので ある. また, 各グループの代表を集めたものを代表系 $($または選択集合$)$と呼ぶ.
    「どのようなグループ分け$($同値関係による商集合$)$に 対しても, 必ず 代表系を選び出すことができる」ということを主張しているのが 選択公理である. これは直観的に明らかに 見えるのだが, なかなか奥が 深い. 一例として, 非可測集合の存在があげられる.
    実数全体 $\textit{\hbox{\ym R}}$$\sim $

$x\sim y\ \Longleftrightarrow \ x-y$ が有理数
とおくと, 各同値類は, 有理数全体 $\textit{\hbox{\ym Q}}$を与えられた 実数だけずらしたものに なっていて, そのグループ分けは直観的に 把握できるような類いのものでは ない. この場合の代表系は“具体的に”構成するのは 難しい$($というより, 実 はできない$)$. にもかかわらず, 選択公理を仮定する ということは, その 存在を認めることに他ならず, 必ずしも明らかなこととは なっていないのである.



Yamagami Shigeru 平成15年2月14日