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この節の内容は標準的でどの本の記述も大差ないので、
各自で「教科書」に当って補っておいて欲しい。
もはや、残りのほとんどすべては自習で理解できるはずである。
量子力学では物理状態を「ベクトル」で表す。さらに2つの状態(=ベクトル)
, に対して確率振幅とよばれる複素数 を対応させて状態 から
状態 への遷移確率が で与えられるとする。
ベクトル空間の抽象化の必要性。
数列の作るベクトル空間
上の
線型作用素 (階差作用素、difference operator、shift operator)
線型漸化式
の解空間 は、線型作用素
の kernel でもある。
例題 9.1
- Fibonacci 数列の一般解の求め方。
- 定数係数線型常微分方程式の解の求め方。
ベクトルの性質。和とスカラー倍(複素あるいは実数倍)、ゼロベクトルの存在。
分配法則の成立。
例題 9.2
- 周期的な数列の作るベクトル空間。
.
- エルミート行列の作る実ベクトル空間。
.
- 有限閉区間上の連続関数の作るベクトル空間。
定義 9.3
内積 (inner product) の定義と性質。ノルム (norm) の定義。
直交 (orthogonal) という言葉使い。
例題 9.4
上記 (i), (ii), (iii) について自然な内積が存在する。
命題 9.5 (シュワルツの不等式、Schwarz' inequality)
内積空間(=内積が指定されたベクトル空間)において、不等式
がなりたつ。
証明.
複素数
と実数
に対して、不等式
が成り立つ。ここで、
と選ぶと、この不等式は
という
について2次の絶対不等式となるので、
その判別式条件から、
となって、これから求める不等式が得られる。
例題 9.6
- 複素数
,
に対して、
- 連続関数 , (
) に対して、
行列のエルミート共役 (hermitian conjugate) の定義とその性質。
行列
に対して、
と置き、
のエルミート共役と称する。最も基本的な関係式が
であり、これから以下の性質が容易に導かれる。
ユニタリー行列 (unitary matrix) と
エルミート行列 (hermitian matrix)、
直交行列 (orthogonal matrix) と
対称行列 (symmetric matrix)。
正規直交系(orthonormal system)・
正規直交基底 (orthonormal basis) の定義と幾何学的解釈。
行列
に対して、
である。
例題 9.7
- 3次のエルミート行列の形は
ここで、 は実数、他は複素数を表す。
- 2次のエルミート行列の作る実ベクトル空間の基底として、
Pauli のスピン行列
を取ることができる。
例題 9.8
- 行列
は回転 (rotation) を表す。
- 次の置換
に対して、
行列
はユニタリー行列である。
とくに巡回置換 (cyclic permutation)
に対して、
である。
Remark
- エルミート行列の和も差もエルミート行列であるが、エルミート行列の
積はエルミート行列になるとは限らない。
- ユニタリー行列の積はユニタリー行列となるが、ユニタリー行列の和は
ユニタリー行列になるとは限らない。
命題 9.9
- エルミート行列の固有値は実数。
- ユニタリー行列の固有値は、絶対値1の複素数。
問 29
二つのユニタリー行列
,
に対して、
が再びユニタリー行列に
なるのはどのような場合か。
補題 9.10 (Schmidt の直交化)
与えられた正規直交系
とこれと独立な(すなわち、これらの一次式で書けない)
ベクトル
に対して
とすると、
は正規直交系をなす。
系 9.11
与えられた正規直交系
に対して、それを
含む正規直交基底がとれる。
補題 9.12
任意の行列はユニタリ行列で三角行列に変形できる。
証明.
行列のサイズ
の大きさに関する帰納法。
サイズが
の行列に対しては正しいと仮定する。
いま、サイズが
の行列
に対して、
の固有値
と
その固有ベクトル
を1組選び、
を含む
正規直交基底
を用意すると、
という表示が得られる。ただし
はサイズが
の行列である。
こうして得られた行列
に帰納法の仮定を適用すると、
サイズが
のユニタリー行列
で、
が(サイズ
の)三角行列となるものが存在する。
そこで、サイズが
のユニタリー行列を
で定めると、
は三角行列となってめでたい。
定義 9.13
行列
で、
となるものを
正規行列 (normal matrix)
と呼ぶ。正規行列でないものは、「アブノーマル」とは呼ばずに、
非正規 (non-normal) という言い方をする。
エルミート行列、ユニタリー行列は正規行列である。
定理 9.14
正規行列はユニタリー行列で対角化できる。
証明.
まず、
正規行列
とユニタリー行列
に対して、行列
は再び正規行列に
なることに注意する。
そこで、三角行列 に対して、
は対角行列
を示せば証明が完了する。これは、直接計算してみるとわかる。
Remark
ここでは、できるだけ手っ取り早い証明を与えたが、もっと自然な方法は、
行列が線型作用素の表示形式であることと、下の固有ベクトルの性質、
および直交分解を組み合せたものである。
「線型代数」(草場公邦)を参照。
次の固有ベクトルに関する正規行列の性質もきわめて重要である。
証明.
(i) は、
からわかる。(2つ目の等号で、
を使う。)
(ii) は (i) に注意して、
による。
正規行列の対角化のステップ
- ステップ1
- 固有方程式を解くことにより、固有値を求める。
- ステップ2
- 固有空間を連立一次方程式の解空間として実現し、
あわせて、固有空間の基底を求める。
- ステップ3
- ステップ2で求めた固有空間の基底を Schmidt の方法で正規直交化する。
- ステップ4
- ステップ3で求めた正規直交系を固有値の種類だけ並べ、
ユニタリー行列を作るとそれが正規行列の対角化を実現する。
例題 9.16
- 型のエルミート行列の対角化。
- 回転の行列の対角化。
- 巡回置換のユニタリー行列の対角化。
次の命題は今までに用意した定理・方法を組み合せることで、
容易に示すことができる。
命題 9.17
実対称行列は直交行列によって対角化される。
問 30
何をどう組み合せるとよいのか考えて、証明にまとめる。
変数
の完全2次式
を
の二次形式 (quadratic form) という。
二次形式の係数行列
は、対称性
を要求すれば一意的に決まる。
係数がすべて実数の二次形式を実二次形式 (real quadratic form) という。
命題 9.18
与えられた実二次形式
に対して、直交行列
を適当に選んで、
変数変換
を行うと、
とできる。ここで、
は係数行列の固有値を表す。
問 32
上の問で与えた二次形式に変数変換を施し、その標準形を求めよ。
二次形式の標準形の応用例として、次の積分公式を挙げておく。
命題 9.20 (Gaussian Integral)
実二次形式
が正定値であるとき、
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Yamagami Shigeru
平成14年12月23日