つぎの行列を(行)基本操作により階段行列に変形してみよう。

$\displaystyle A =
\begin{pmatrix}
8 & 3 & -2 & 3\\
2 & -3 & -3 & 2\\
6 & -3 & -5 & 4
\end{pmatrix}$

この行列の1列目はどの成分も0ではないので、 どれを「支点」(pivot という)に選んでもよいが、 後の計算で割り算をしないても済むように、1行目と2行目を入れ替えた

$\displaystyle \begin{pmatrix}
2 & -3 & -3 & 2\\
8 & 3 & -2 & 3\\
6 & -3 & -5 & 4
\end{pmatrix}$

に対して、1行1列目を支点にして、縦方向に「掃き出す」と、

$\displaystyle \begin{pmatrix}
2 & -3 & -3 & 2\\
8-4\times 2 & 3 -4\times(-3) &...
...in{pmatrix}
2 & -3 & -3 & 2\\
0 & 15 & 10 & -5\\
0 & 6 & 4 & -2
\end{pmatrix}$

と変形できる。

ここで落ち着いて2行目と3行目をながめてみれば、共通の因子でくくれるので、 2行目を5で、3行目を2でそれぞれ割れば、

$\displaystyle \begin{pmatrix}
2 & -3 & -3 & 2\\
0 & 3 & 2 & -1\\
0 & 3 & 2 & -1
\end{pmatrix}$

となる。 そこで、2行2列目を支点に縦方向に掃き出すと、

$\displaystyle \begin{pmatrix}
2 & 0 & -1 & 1\\
0 & 3 & 2 & -1\\
0 & 0 & 0 & 0
\end{pmatrix}$

を得る。

まとめると、連立1次方程式

$\displaystyle A
\begin{pmatrix}
x\\
y\\
z\\
t
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
0\\
0\\
0
\end{pmatrix}$

の解空間 $ V$ は、連立1次方程式

$\displaystyle \begin{pmatrix}
2 & 0 & -1 & 1\\
0 & 3 & 2 & -1\\
0 & 0 & 0 & 0...
...rix}
x\\
y\\
s\\
t
\end{pmatrix}=
\begin{pmatrix}
0\\
0\\
0
\end{pmatrix}$

のそれと同一である。 この最後の連立方程式を処理するために、 階段の角にこない変数 $ s$, $ t$ をパラメータとし、 階段角の変数 $ x$, $ y$ について解けば、

$\displaystyle x = \frac{s-t}{2},
\qquad
y = \frac{t - 2s}{3}
$

となるので、$ V$ に属するベクトルは、

$\displaystyle \begin{pmatrix}
x\\
y\\
s\\
t
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix...
...
0
\end{pmatrix}+ \frac{t}{6}
\begin{pmatrix}
-3\\
2\\
0\\
6
\end{pmatrix}$

の形であることがわかる。 とくに、$ V$ の基底として

$\displaystyle \begin{pmatrix}
3\\
-4\\
6\\
0
\end{pmatrix},
\qquad
\begin{pmatrix}
-3\\
2\\
0\\
6
\end{pmatrix}$

をとることができ、$ V$ は2次元である。


注意

変形の操作を、

$\displaystyle \begin{pmatrix}
2 & -3 & -3 & 2\\
8 & 3 & -2 & 3\\
6 & -3 & -5 ...
...in{pmatrix}
2 & -3 & -3 & 2\\
0 & 15 & 10 & -5\\
0 & 6 & 4 & -2
\end{pmatrix}$

などと書くのは差し支えないが、

$\displaystyle \begin{pmatrix}
2 & -3 & -3 & 2\\
8 & 3 & -2 & 3\\
6 & -3 & -5 ...
...in{pmatrix}
2 & -3 & -3 & 2\\
0 & 15 & 10 & -5\\
0 & 6 & 4 & -2
\end{pmatrix}$

のように等号で結んではいけない。 この2つの行列は等しくない!

Yamagami Shigeru 平成14年12月30日